神戸地方裁判所尼崎支部 昭和42年(ワ)302号 判決 1968年12月23日
原告
八木徳次
ほか一名
被告
津田泰男
ほか一名
主文
一、被告津田泰男は原告八木徳次に対し金三七八万六、六一五円、及び内金三四八万六、六一五円に対する昭和四二年六月二二日より、内金三〇万円に対する昭和四三年一二月二四日より右支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二、被告津田泰男は原告八木八重に対し金三〇万円及びこれに対する昭和四二年六月二二日より右支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
三、原告等の被告津田泰男に対するその余の各請求、及び被告津田光太郎に対する請求は、いずれもこれを棄却する。
四、訴訟費用のうち、原告等と被告津田泰男関係で生じた分はこれを三分し、その一を原告等の、その余を被告津田泰男の各負担とし、原告等と被告津田光太郎関係で生じた分は原告等の負担とする。
五、この判決の第一項は原告八木徳次において金一二〇万円の担保を供するとき、同第二項は原告八木八重において金一〇万円の担保を供するとき、それぞれ仮に執行することが出来る。
事実
第一、当事者双方の申立
一、原告等
(一) 被告等は原告八木徳次に対し各自金六〇〇万円及びこれに対する昭和四二年六月二二日より右支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 被告等は原告八木八重に対し各自金五〇万円及びこれに対する昭和四二年六月二二日より右支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
(三) 訴訟費用は被告等の負担とする。
との判決並びに第一、二項につき仮執行宣言を求める。
二、被告等
(一) 原告等の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告等の負担とする。
との判決を求める。
第二、当事者双方の主張
一、原告等
(請求原因)
(一) 被告津田泰男は、昭和四〇年一二月三日午後五時二〇分ごろ、日産セドリツク兵五に七一六〇号自動車を運転し西宮市甲子園砂田町二〇番地先路上を南進中、同道路を西から東に横断歩行しようとした訴外亡八木スナエに衝突し、そのため同訴外人は右自動車の前部で約七米前方に跳ね飛ばされ、脳底骨折、脳内出血及び左脛骨非骨陥没開放性骨折兼左膝関節部裂傷、左骨尺骨完全骨折、全身打撲傷等の傷害を受け、右事故の翌日の昭和四〇年一二月四日午後一一時一〇分に死亡した。
(二) 被告津田泰男は時計商を営み、被告津田光太郎は右泰男の実父であるところ、光太郎は前記事故車を所有し、これを泰男に貸与して右営業用に使用させていたものであり、被告両名は自動車損害賠償保障法第三条の運行供用者として本件事故による損害賠償責任を免れない。
(三) 亡八木スナエの損害
(イ) 財産上の損害
亡八木スナエは原告八木徳次の妻であり、死亡当時満五五才の主婦であつた。そこで厚生大臣官房統計調査表によるとその平均余命は平均一九、二〇年であり、労働大臣官房労働統計調査部調査によると昭和四〇年当時の女子労働者の平均賃金は一ケ月金一万六、一五九円であり、又当時の一ケ月の平均生活費は金六、六〇〇円を超えない。そうすると本件事故により亡八木スナエの蒙つた損害は将来一九年間に亘り一ケ年の収入金一一万四、七〇八円の継続的年収の総額であり、これを一時に請求するとすれば、ホフマン式計算法によつて中間利息を控除した金一五〇万三、五一七円が一時に請求出来る金額である。
(ロ) 慰藉料
亡八木スナエは本件事故により前記重傷を受けた結果約三〇時間後に死亡したものであるから、その間の傷害により受けた精神的苦痛は多大のものがあり、その慰藉料は金二〇〇万円を下らない。
(四) 原告八木徳次の損害
(イ) 財産上の損害
同原告は、亡八木スナエの夫であるが、その葬儀及び追善供養費として別紙明細書のとおり金三八万八、二五五円を支出し、且つ本訴提起のため弁護士に対し着手金として金一〇万円を支払い、その報酬金として認容額の一〇%を支払うことを約した。よつて同原告は右葬儀費用等金三八万八、二五五円、右着手金一〇万円、及び報酬金五八万円の合計金一〇六万八、二五五円の損害を蒙つた。
(ロ) 慰藉料
同原告は亡八木スナエと昭和二二年五月一日結婚し、子供はなかつたが、夫婦仲は円満であり、亡八木スナエは健康で社交性に富んだ人格円満な女性で茶道等の趣味を有し内助の功あつい良妻であつた。本件事故当時原告は日本電信電話公社大阪地方通信部線路工事課長の職にあり、夫婦と同原告の実母原告八重(当時八〇才)の三人で共同生活を営んでおり、八重は終戦直後緑内障のため両眼を失明したため、亡八木スナエが以後献身的に八重の身のまわりの世話をして来た。然るに本件事故により突然妻を失つたため、同原告は右八重の世話をすることと、前記職責を両立させる心身の自信を失い、昭和四二年三月三一日付をもつて退職するの止むなきに至つた。右の如く原告八木徳次の精神的苦痛は多大のものがあり、その慰藉料は金四〇〇万円を下らない。
(五) 原告八木八重の損害(慰藉料)
同原告は現在八二才の老令で且つ前記の如く両眼盲目であるが、従来二〇年間献身的に身のまわりの世話をしてくれた訴外亡八木スナエを失つて心身の支えを失い日常生活にも難渋を来しているもので、その慰藉料は金五〇万円を下らない。
(六) 原告八木徳次は訴外亡八木スナエの前記損害賠償請求権を相続により取得し、その固有の請求権とあわせて被告両名に対し合計八五七万一、七七四円の損害賠償請求権を取得したところ、昭和四二年一二月ごろ自動車損害賠償保険金一〇五万六、六五〇円を、同年五月末ごろ被告津田泰男より金三〇万円を受領したので、これを右請求権に充当すると右残債権は金七二一万五、一二四円となる。
(七) よつて原告八木徳次は被告等に対し各自連帯して右残債権の内金六〇〇万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和四二年六月二二日より右支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、原告八木八重は被告等に対し各自連帯して金五〇万円及びこれに対する前同様昭和四二年六月二二日より右支払ずみに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴請求に及んだ。
(被告の過失相殺の抗弁に対する答弁)
否認する。本件事故発生現場は歩行者の横断禁止の規制のある場所ではない。歩行者は横断歩道のある場所の附近では横断歩道を横断しなければならない(道交法第一二条第二項)のであるが、右にいう「横断歩道のある場所の附近」とは横断歩道から楕々二、三〇米の場所を指すものである。しかるに本件の如く事故現場から一〇〇米の遠方に横断歩道があり、しかも本件事故現場と右横断歩道の地点との間には被害者宅へ通ずる道路が三ケ所もある場合(別紙図面のA・B・Cの道路)には、仮令歩行者が横断歩道を通行しなかつたとしても、そのことをもつて歩行者に過失ありとは云えない。又原告は亡八木スナエが北進するトラツクの直前を走り出たと主張するが、無謀な走行横断ではなく、横断に充分余裕のあつた通常の横断であつて右被害者に何ら過失はない。
二、被告等
(請求原因に対する答弁)
請求原因第一項の事実は認める。同第二項の事実は否認する。本件加害車両の真実の所有者は被告津田泰男であり、ただその所有登録名義については便宜上被告津田光太郎名義にしたものに過ぎない。同第三ないし第五項の事実のうち、訴外亡八木スナエが原告の妻であり、その間に子供がなかつたことは不知、その余の損害発生の事実はすべて否認する。
(過失相殺の抗弁)
本件事故現場は信号機等の設置、横断歩道もなく南北道路に対し西方より道路が接している状況にあり、又時刻は初冬の午後五時二〇分という薄暮時の見透し困難な時刻であつた。被告津田泰男は本件事故現場に差しかかつた時、その右側を先行していた訴外岩田正幸運転の自動車が停止したので被告津田泰男も一且停車したが、その際右岩田が西方の道路に右折するものと錯誤してそのまゝ発進したことが本件事故発生の一原因となつたことは認めるが、右事故当時南進する岩田車及び被告車に対し対向北進して来るトラツクがあつて、そのトラツクの前照灯の前を被害者の訴外八木スナエは小走りに走り出て来たものである。すなわち被害者は本件事故現場の北方約八〇米のところにある正規の横断歩道を横断せず、横断歩道でない本件事故現場を横断し、且つ右横断にあたつても前記トラツクの進行にのみ気を奪われ、右トラツクの方向すなわち南方ばかりを見ながら横断し、南進する自動車を確認しないで横断したため、丁度発進しようとしていた被告車と衝突したものであり、本件事故発生には被害者の重大な過失にも基因するところがあるから、その損害の算定にあたつては被害者の右過失を考慮の上相当の相殺がなされるべきである。
第三、証拠 〔略〕
理由
一、請求原因第一項の事実(本件事故の発生の事実)は当事者間に争いがない。
二、被告等の責任
〔証拠略〕によれば、被告津田泰男は肩書地において昭和三四年一一月以降時計の修理販売店を営業している者であるところ、昭和三七年三月一四日普通自動車免許を取得し、そのころ右営業用として本件自動車を購入して所有し、以後これを使用して来たこと、そして本件事故当日客より指輪の修理を依頼されたので、本件自動車を運転して右指輪を自宅より西宮市甲子園口六丁目の天野細工店に持参して修理を受け、これを受取つて自宅に帰る途中本件事故を惹起せしめたことが認められる。そうすると同被告は自動車損害賠償保障法第三条の運行供用者に該ることは明らかであるところ、他に同条所定の免責の要件の主張はなされていないから、同被告は本件事故に基く損害の賠償義務を免れることは出来ない。
ところで前記各証拠によれば、本件自動車はその購入当初より被告津田泰男の実父である被告津田光太郎所有名義で登録がなされていたことが認められる。しかしながら、他方同証拠によれば、被告光太郎は本件事故当時年令七〇才の無職者で被告泰男夫婦とは別居しており、前記時計商も被告泰男が大学中退後新規に始めた営業であつて被告光太郎は右営業に何ら関係がなかつたこと、被告泰男は本件自動車を購入するに当り、税務対策上被告光太郎の名義を借用して同人名義で登録したが、その維持管理及び使用はすべて被告泰男においてなして来たものであることが認められる。右事実関係によれば、その実質において被告光太郎が本件自動車の運行を支配し且つその運行利益を得ていたものと認めるに至らないから、被告光太郎は自賠法第三条の運行供用者に該らないものと云うべきであり、従つて同被告は本件事故に基く損害賠償責任を有しない。
三、被害者(訴外亡八木スナエ)の過失
〔証拠略〕によれば、本件事故当時は初冬の薄暮時でやゝ見透し困難な時刻であり車両等は前照灯をつけていたこと、本件事故現場は幅員一三米のコンクリート舗装の南北道路に西側より幅員五、九米のアスフアルト道路が丁字型に接する地点で横断歩道はないが又横断禁止場所でもなく、右現場の北方約一〇〇米の地点に信号機の設置された交差点があること、被告津田泰男は前記自動車を運転し右南北道路のセンターラインの東側部分を同方向に進行する訴外岩田正幸運転の軽四輪乗用車の左後方(自車の前部と右軽四輪の後部が平行になる位置)に追従して時速約四〇キロメートルで南進し前記現場に差しかかつた際、訴外亡八木スナエが前記丁字型に接する道路より右南北道路を小走りに横断してその西側部分を渡り切り更に東側部分を渡り始めたこと、前記岩田はこれを約一五米手前で発見して直ちに急制動をかけて減速し右八木スナエの手前三、四米の地点で停車し同人との衝突を免れたが、被告津田泰男は右岩田車が減速したのでその前方に障害物があるものと思い同時に減速したが、右岩田車が前記地点で停車し、且つ丁度右南北道路の西側部分を対向して来るトラツクがあつたゝめ、右岩田車が前記西行道路へ右折するため停車したものと軽信し、その右前方を確認することなく右岩田車と平行した際再び加速進行したため、丁度右岩田車の進行状態のみに気を奪われ、他車も右岩田車と同様に停車するものと軽信し、被告車の進行状態を注視することなくその進路に小走りに出て来た訴外亡八木スナエに出合頭にその右前部を衝突させたことが認められる。
右事実によれば、被告津田泰男の右前方確認義務違反が本件事故の主たる原因になつていることは明らかであるけれども、他方訴外亡八木スナエの横断が車両の直前横断ではないとしても、その場所は横断歩道ではないので、車両が必ず横断者の直前で停車するものとは限らず、その進行状態が急に変化する危険が存するから、かゝる場合横断歩行者は車両の進行状態を注視しつゝ横断すべき注意義務を免れないものと云うべきである。しかるに同訴外人は右注意義務を怠り、前記の如く被告車の進路に走り出たものであり、右注意義務違反が本件事故発生の一因になつていることを否定することは出来ない。
四、本件事故に基く損害
(一) 亡八木スナエの損害
(イ) 逸失利益
〔証拠略〕によれば、八木スナエは原告八木徳次の妻で、死亡当時満五五才の家事従事の所謂主婦であつたことが認められる。
ところで主婦の逸失利益については、積極、消極の両説があるが、逸失利益をもつて被害者が稼働能力を喪失したゝめに将来その労働により取得したであろう経済的金銭的利益(その労働の対価)を喪失したことによる損害を云うものと解するならば、その意味においては主婦の労働は何らの対価を取得するものではないから、その逸失利益を否定せざるを得ないであろう。しかしながら主婦の家事労働も右の如く現実に対価を取得していないと云うに過ぎずして右労働自体が財産的価値を有し且つその評価も可能であることは疑いのないところであるから、右労働価値自体の喪失をもつて逸失利益に準じこれを財産上の損害として認めることが出来るものと思料される。(同旨東京地裁昭和四二年一一月一三日判決―判例時報四九八号一六頁)
しかるところ〔証拠略〕によれば、同原告は妻スナエの死亡直後急遽家政婦を雇い入れ三食付月額金一万円を支給して家事及び原告徳次の母の原告八重の世話をさせて来たが、約二年後これを解雇したことが認められる。そうすると亡スナエの家事従事労働の財産的評価は月額金一万円、年額金一二万円と認められるところ、満五五才の女子の労働可能年数は統計上九・三年と認められるから、右財産的評価額を本件不法行為時において一時に請求するものとしてホフマン式計算法により中間利息(年五分)を控除して右請求額を算出すると金八七万円(一万円未満切捨)となる。しかしながら前記三において認定した如く同訴外人に過失が認められ、右過失の程度は被告津田泰男の過失の八に対し、同訴外人の過失を二と認むべきであるから、これを過失相殺すれば右損害額は金六九万円(一万円未満切捨)となる。
(ロ) 慰藉料
〔証拠略〕によれば、八木スナエは昭和二二年五月一日原告八木徳次と結婚し、夫婦間に子供はなかつたが、原告徳次の母である原告八重(当時八〇才)と円満に共同生活をなして来たものであり、健康で性格は明るく、原告八重をよく世話し、その外地域の婦人会の役員をし、習字、生花、刺しゆう、長唄などの趣味を有する女性であつたことが認められる。しかるに本件事故により重傷を受けた結果、約三〇時間後に死亡したものでその傷害による精神的苦痛は多大のものがあつたことは明らかであるが、前記の如く同訴外人にも過失があつたものであるから右過失を斟酌すれば、その慰藉料は金八〇万円をもつて相当と認むべきである。
(二) 原告八木徳次の損害
(イ) 葬儀及び追善供養費
〔証拠略〕によれば、原告八木徳次は八木スナエの葬儀及び追善供養費として別紙明細書記載のとおり総額金三八万八、二五五円を支出したことが認められるが、右支出のうちには明らかに本件事故による損害とは認められない香典返しが含まれている外、満中陰費用、及び百ケ日忌費用が含まれており、そのすべてを本件事故による損害と認めることは出来ず、結局そのうち(一)葬儀費用金一三万八、三一三円、(二)葬儀飲食費金五万一、一六五円、(三)葬儀雑費金二万五、二九〇円、(四)初七日忌費用金一万五、一七七円、及び満中陰費用のうち、(1)寺院御礼、(2)寺院御膳料、(3)満中陰忌仕出し料、(6)挨拶状代、(7)挨拶状発送費等合計金二万三、三二〇円合計金二五万三、二六五円をもつて本件事故による損害と認める。
(ロ) 弁護士費用
〔証拠略〕によれば、原告八木徳次は本件訴訟提起を弁護士に委任して右提起前にその着手金一〇万円を支払つた外、その報酬金を支払う約定をなしたことが認められるところ、本訴提起に至るまでの経過、被告の応訴態度、及び本件事件の難易性等を総合考察すれば、右着手金一〇万円及び右報酬金のうち金三〇万円合計金四〇万円をもつて本件事故による損害と認める。
(ハ) 慰藉料
〔証拠略〕によれば、原告八木徳次は本件事故当時日本電信電話公社大阪地方電気通信部の課長職にあつたが、同居し扶養している母の原告八重が終戦以来緑内障により失明し、その世話を妻の亡スナエがなして来ていたが、妻の死亡により前記の如く急遽家政婦を雇い入れ母の世話をさせて来たが、家政婦は日曜祭日は休む外その世話も行届かないため、結局原告八木徳次において右世話をせざるを得なくなり、そのため前記勤務先を停年まで後二年を残して昭和四二年三月三一日をもつて退職し、その後家政婦も解雇し以後右盲目の母を世話していることが認められ、右によれば原告八木徳次の精神的苦痛は多大のものがあり、その慰藉料は金三〇〇万円をもつて相当と認むべきである。
(三) 原告八木八重の損害
慰藉料請求権者である近親者の範囲について、民法七一一条は、その条文の文言及びその位置などから考えて、これを制限的規定と解釈するのが正当であるけれども、右規定にかゝる「父母、配偶者及び子」と同程度に被害者の生命侵害により精神の損害を受けたと認められる者に対しては同条に準じ民法七〇九条、七一〇条により慰藉料請求権を認めるのが相当である。原告八重は原告八木徳次の実母であつて被害者の訴外八木スナエの母ではないが、終戦以来二〇年間盲目のため同訴外人の世話を受け同訴外人を実子同様に思い、心身の支えとして来たものであるから、同訴外人の死亡により実子を失つたと同様の精神的苦痛を受けているものと云うべきであり、その慰藉料は金三〇万円をもつて相当と認むべきである。
五、相続並に弁済関係
原告八木徳次が訴外亡八木スナエの夫として同訴外人の前記請求権を相続により取得したことは被告等において明らかに争わないのでこれを自白したものとみなす。そうすると原告八木徳次は被告津田泰男に対し、その固有の損害として金三六五万三、二六五円、同訴外人より相続した損害として金一四九万円、合計金五一四万三、二六五円の、原告八木八重は被告津田泰男に対し金三〇万円の、各損害賠償債権を有することになる。しかるところ、原告八木徳次が昭和四二年一二月ごろ本件事故による自動車損害賠償保険金として金一〇五万六、六五〇円を、昭和四二年五月末ごろ被告津田泰男より金三〇万円をそれぞれ受領したことは原告等において自認するところであるから、これを弁済金として前記原告八木徳次の損害金に充当すれば、同原告の被告津田泰男に対する損害賠償債権は金三七八万六、六一五円となる。
六、結論
よつて、被告津田泰男は原告八木徳次に対し本件事故による損害金三七八万六、六一五円、及び弁護士費用のうち未だ支払われていない報酬金相当を除く金三四八万六、六一五円に対する本訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四二年六月二二日より右報酬金相当の金三〇万円に対する本判決言渡期日の翌日である昭和四三年一二月二四日より各支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務があり、原告八木八重に対し本件事故に基く損害金三〇万円及びこれに対する前同様昭和四二年六月二二日より右支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるので、原告等の被告津田泰男に対する本訴請求はいずれも右限度で理由があるので右限度でこれを認容し、その余は理由がないので失当としてこれを棄却し、原告等の被告津田光太郎に対する本訴請求はいずれも理由がないので失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言について同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 久末洋三)
〔別紙明細書〕 葬儀費用及追善供養費明細
(一) 葬儀費用=一三八、三一三円
内訳 (1) 枕経料 五〇〇円
(2) お寺様御礼 八、〇〇〇円
(3) 御膳料 二、〇〇〇円
(4) 灰葬経料 一、〇〇〇円
(5) お寺様車料 一、〇〇〇円
(6) 霊柩車運転手心付 五〇〇円
(7) ハイヤー運転手心付(一一台分) 二、二〇〇円
(8) 火葬場心付(四人分) 一、二〇〇円
(9) 公益社お手伝心付 二、七〇〇円
(10) 納棺謝礼 一、〇〇〇円
(11) ハイヤー一一台分車賃 九、九〇〇円
(12) 葬儀飾付 七九、五〇〇円
(13) 火葬料 九〇〇円
(14) 寝台自動車賃 一、三五〇円
(病院より自宅まで)
(15) 賄費 二五、〇六三円
(16) 骨上げタクシー代(二台分) 一、五〇〇円
(二) 葬儀飲食費=五一、一六五円
(1) 寿司屋支払分 一一、七五〇円
(2) 仕出し支払分 三五、五〇〇円
(3) 酒代 三、九一五円
(三) 葬儀雑費=二五、二九〇円
(ハガキ代、金封、半紙、謝礼袋、画鋲、セロテープ)
(四) 初七日忌費用=一五、一七七円
(1) 寺院御膳料 一、〇〇〇円
(2) 賄料 四四〇円
(3) 粗供養費 一三、七三七円
(寿司 三、四六〇円)
(米、炭、醤油、酢 五、〇九七円)
(酒五本他 五、一八〇円)
(五) 満中陰費用=一四九、七三〇円
(1) 寺院御礼 三、〇〇〇円
(2) 寺院御膳料 一、〇〇〇円
(3) 満中陰忌仕出し料 一七、八〇〇円
(4) 香典返し 九五、五六〇円
(5) 山供養葉書返品 一二、二五〇円
(6) 挨拶状(封書代) 一、〇〇〇円
(7) 挨拶状発送費 五二〇円
(8) 三七日供養酒代 三、六五〇円
(9) 満中陰志 一四、九五〇円
(六) 百ケ日忌費用=八、五八〇円
(1) 寺院御礼 一、〇〇〇円
(2) 寺院御膳料 一、〇〇〇円
(3) 寺院御菓子料 五〇〇円
(4) 会席料 四、八〇〇円
(5) 粗供養費 一、二八〇円
以上合計金三八万八、二五五円也
<省略>